大馬鹿理論と株価

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「大馬鹿理論(Greater Fool Theory)」は、資産の“本来価値”より高い価格で買っても、将来それ以上の価格で買ってくれる「さらに高値でも買う人(より強気な買い手)」が現れる限り、利益が出せるという考え方です。投資理論というより、市場が「期待」と「需給」で動く局面を説明するための、行動経済学的なレンズに近い存在です。

この理論の厄介な点は、前提が“参加者の心理”に強く依存していることです。みんなが「まだ上がる」と信じる間は価格が伸びやすい一方、「さすがに高すぎる」「期待を織り込みすぎた」と空気が変わった瞬間、買い手が細り、売りが連鎖しやすくなります。

結果として、価格は短期間で大きく下がり、“公正価値”とされる水準へ急速に近づくことがあります(ときに行き過ぎて割安に見えるところまで落ちることもあります)。


株価にとっての「公正価値」とは何か

では、株価における公正価値とは何でしょうか。一般には、将来の利益・キャッシュフローを現在価値に割り引くDCFや、利益に倍率を掛けるPER、純資産に着目するPBRなど、複数の尺度で“だいたいこの辺”を見積もります。

ただし実際の株価は、計算結果どおりに落ち着くとは限りません。株価は常に「未来」を売買しているので、いまの実績よりも、これから伸びる確度・速度のほうが短期的には重視されます。新製品、新規事業、規制変更、業界再編、指数採用、海外資金の流入といった“物語”が強いほど、株価は先回りしやすく、同時に期待が過剰になりやすい。ここに大馬鹿理論の影が差します。


任天堂・カプコンに見える“期待の先回り”

※2025年2月時点

最近気になる銘柄として、任天堂とカプコンを挙げると、足元の業績が突出して強いわけではないのに株価がじわじわ上がる、という局面が起きています。

背景には、任天堂はSwitch2、カプコンはモンハンといった大型材料への期待があり、将来の利益成長を先回りして株価が形成されている、という構図が見えます。

ここで重要なのは、株価が織り込むのは「発売そのもの」ではなく、発売後にどれだけ利益が増えるかという“結果”だという点です。期待が高いほど、投資家の頭の中では「成功した未来」が当たり前になっていきます。

すると、実際の数字が良くても「想定どおり」に見えてしまい、株価は上がらないどころか下がることすらある。いわゆる「噂で買って事実で売る(Sell the news)」が起きやすいのは、イベント前に期待が積み上がっているからです。


「順当」でも下がる理由:サプライズのハードル

期待相場で怖いのは、失望のトリガーが“悪材料”とは限らないことです。市場の期待値が高いと、売上や販売本数が“順当”でも、「もっと上があるはずだった」という反応が出ます。株価は次のように動きやすいからです。

・イベント前:期待が積み上がり、PERなどの倍率が上がる(=未来の利益を前倒しで買う)

・イベント後:結果が出た瞬間、次の材料が薄いと倍率が縮む(=織り込みの巻き戻しが起きる)

この「倍率の縮み」は、利益そのものの変化より株価に大きく効くことがあります。

任天堂について「予想PER50倍はバブル的だ」という感覚は、まさにこの“倍率”の話です。PERは「利益×倍率」なので、倍率が高いほど「来期以降の利益が大きく伸びる」ことを前提にしています。裏を返すと、市場はEPSが2倍、場合によってはそれ以上伸びるようなシナリオを相応に織り込んでいる可能性がある。だからこそ、少しのズレが怖い。 


期待相場でのチェックポイント

期待で動く局面では、「良い会社かどうか」だけでなく、「期待がどこまで膨らんでいるか」を見ないと事故りやすくなります。実務的には次の観点が役に立ちます。

  • 期待の水準を把握する:市場コンセンサス、会社のガイダンス、注目KPI(販売本数、課金動向、リピート率など)
  • “次の材料”の有無:発売後のDLC、追加タイトル、他IP展開、周辺事業など二の矢・三の矢があるか
  • 需給の偏り:出来高の急増、信用買い残の膨張、短期資金の流入など過熱サインはないか
  • 時間軸を分ける:短期は「期待の変化」、長期は「利益の積み上げ」。同じ銘柄でも戦い方が変わる

大馬鹿理論を“否定”する必要はありません。市場は現実に、期待で動くことがあるからです。ただ、乗るなら「どこまでを織り込みと見て、どこで降りるか」を事前に決めることが重要です。長期投資のつもりなら、一時的な急落にも耐えられる資金設計(分散、買い増しルール、過大な一極集中の回避)が必要になります。


まとめ

大馬鹿理論は、株価が公正価値から乖離していく局面を説明する、便利で少し怖い考え方です。任天堂やカプコンのように強い新製品期待がある銘柄は、期待が先に株価を押し上げやすい一方で、サプライズのハードルも高くなります。「なりそうだから怖い」という直感は、期待の織り込みが進むほど、結果発表後の値動きが荒くなる可能性を示しているのだと思います。

※本稿は一般的な情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

About Shinya Okada

1989年生まれ。既婚。東京高専・茨城大。
グループ会社SE→社内SEへ転職。
趣味:バレーボール、投資、プログラミング